ネズミの毛で作られた蒔絵筆の話

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ネズミの毛で作られた蒔絵筆の話蒔絵に使うネズミ毛の筆の話

害獣害獣と忌み嫌われるネズミ。
そんなネズミでも伝統工芸には欠かせないものがあるというのをご存じでしょうか。

縄文時代から受け継がれ、桃山時代から世界に紹介されてきた世界に誇る「日本美」である蒔絵。
漆で絵を描く際に使う筆のひとつにネズミから作られる筆があります。

蒔絵筆には通常、猫やタヌキの毛が使われていますが、繊細な線を描くにはネズミの背中の毛で作られた筆が使用されます。

漆というのは粘性が強く、柳のように一本の細く長い線を線を描くには、毛足の長さや腰の強さがある筆が必要になります。

ところがそのネズミの毛で作られた筆の材料が手に入りにくくなってきているのです。

蒔絵の制作にはネズミの毛が必要

ネズミならどこにでもいる? たしかにいます。
飲食店や住宅はもちろん、近頃では都会のビルにさえもいるくらいです。
そのネズミを捕まえて筆にすればいい?

ところがそんなに簡単にはできないようです。
建物の狭い空間をうろうろするネズミは、建造物や物に触れますので毛がすり減ったり傷んでしまっています。
それでは筆にできるレベルにありません。

ネズミの毛で作られた蒔絵筆

蒔絵の繊細な描画に必要なネズミ筆

必要なのはネズミの背中の中心部の強く長い毛です。
繊細な線を描くに適している毛は、痛みのないネズミの背中の毛が必要です。

ネズミの筆に使われるネズミは、もともとは、穀送船にいるネズミが最高とされていました。
餌の米は食べ放題で丸々と太るので毛質も良く、木造船だと筆に必要なを傷めることもありません。

そんな整った毛で作る筆が蒔絵の制作に適していました。

けれども時代が移り木造船もなくなってしまいました。
それに伴い筆に適したネズミもいなくなりました。

そこで使われたのが琵琶湖の周辺の湿地に住むネズミ

ネズミは自然の葦の茂みに住んでいたのですが、河川工事やほかの動物に追われて姿を消した、あるいはネズミ猟師さんの高齢化によりネズミを捕る人がいなくなったという話も聞きいたことがあります。

琵琶湖の周辺の湿地に住むネズミ

とにかく、今ではネズミの毛の筆は手に入りにくく、値段も高級になってしまったのです。

「ねずみの毛」の筆は2~4万位しますが、すべてがいい筆ではないので5~6本買い、その中のいいのを選びます。

ということは単純に計算して12~24万円でしょうか。
細い細い筆がこの値段・・・しかも筆というのは消耗品なので、傷んだら買い替える必要があります。

中国から入ってくるらしいのですが毛の質までは伝わらなくて、「蒔絵」筆に出来るまでには至っていないそうです。
実際に注文しても2年以上入ってこないということなので、蒔絵職人さんの頭を悩ませています。

博物館にある昔の蒔絵の名作を修復している方が、ネズミの筆がなくて悩んでいるといるというのをテレビで見たことがあります。

昔の蒔絵はレベルが高く、制作時に使っていた道具でないと再現することが難しいのです。
繊細で伸びのある線を修復するのにはネズミの筆が必要です.

蒔絵の制作にはネズミの毛が必要

ネズミ毛の筆に必要な「水毛」

蒔絵の描画には、何故ねずみの毛でないといけないのでしょうか?

良いねずみの毛は、死後何日か過ぎた状態のときが理想的だそうです。
捕ったネズミの死骸を一度埋めて置きます。

すると死んだネズミの養分を吸って、毛先から透明な「水毛」が極少々出ます。
これこそがたっぷり漆を浸けても毛先が尖っている為に細く盛のいい線が描けくために必要なものです。

筆というのはどの筆もそうですが、筆先が重要です。
ネズミ筆の筆先は15~20mmの長さを持ち、先の細い毛「水毛」だけが選ばれるので, 1本の筆を作るのに少なくとも毛皮5枚が必要だといいます。

蒔絵職人さん方は北海道から奄美大島まで,日本各地のネズミや東南アジアなど海外のネズミを取り寄せて 筆を試作したり、あるいはナイロン製の筆を試してみたたのですがうまく行きませんでした。

これを知った経済産業省は,日本の伝統 工芸を守るために代替品開発などの調査研究に乗り出す予定を組んだようです。

琵琶湖の葦の湿地に住むネズミがクマネズミ?

琵琶湖の葦の湿地に住むネズミがクマネズミ?

さて、この筆に使われるネズミの種類のお話をしましょう。
このブログはネズミ駆除のブログですので。

私的にはネズミの種類が気になりました。
このネズミは長年「クマネズミ」であると言われてきましたが、どうも違和感があります。

クマネズミはどこにでも住めますが、好みということになれば違います。

クマネズミはもともと東南アジアの森林地帯が原産で、森林に住み樹上生活をしているために「高い場所」が好きです。そして、暖かく比較的乾いた環境を好みます。

樹上生活で乾いた環境を好むクマネズミが、わざわざジメジメした船底や葦の茂みに生息しているのでしょうか?

おかしいなぁ?と気になりました。

私と同じように疑問を持ったある方がおられたようで、筆と,毛の採取に用いる毛皮とを調べたところ、どうもこのネズミはクマネズミではなくドブネズミであるということが判明しました。

「ドブネズミ」はというと、その名の通り、ジメジメした湿地などの水辺は大好き。
土手などに穴を掘り巣を作ります。船底や葦の茂みなんて大好きです。

毛皮の大きさを調べると体長が30cmと大きく、そのわりに耳介は小さい。そしてお腹は灰褐色だったそうです。

クマネズミはドブネズミに比べれば20cm以下と小さく、耳介が大きいのが特徴。腹は黄褐色です。

したがって、長年ネズミの筆はクマネズミで作られると信じられてきましたが、これは間違い。
ネズミ毛の筆はドブネズミ。

おそらく英語でクマネズミのことをship rat( 船ネズミ)と呼ぶことがあるので、その辺で誤解されたのでしょうか?ちなみになぜ船ネズミかというと、クマネズミの分散は海上交通網の発達と共に世界中に広がったことからというのが語源なんだとか。

ドブネズミは水辺を好み、泳ぎも達者です。
毛質も泳ぐことに適していることでしょう。それがさきほどお話した「水毛」に関係しているような気がします。
毛の表面構造や腰の強さを含めて気になるところです。

素人考えですがネズミ筆、ドブネズミなら実験動物としてのラットを毛で作れば良いのでは?
(すでに作ってるとしたらごめんなさい。)

 

参考:http://coshi.jp/person/matsuda/
出典:http://ujsnh.org/activity/essay/wajima.html